いつも訪れる寺社へ参拝すると長閑で静かな境内が広がっていますが、正月初詣に行くと境内の様相は一変し、大勢の参拝者たちや出店(屋台)などが集い、1年で一番とも言えるほど賑わいをみせます。
そんな大勢の参拝者たちがほぼ必ず奉納あります。
もうお分りですね?
そうです。「お賽銭」です。
しかし大勢の参拝者たちから奉納されるお賽銭を受け入れるためには、ちょっといつものお賽銭箱では小さい気がします。
そこで寺社によっては、初詣期間中は特別に「大型のお賽銭箱」・・ではなく、臨時で設営された「特大のお賽銭受け」を用意することがあります。
お賽銭受けが用意されるということは、その大きさに比例した大量のお賽銭が奉納される見込みがあるということですが、ほとんど誰しもが気になるのは「奉納された大量のお賽銭はいったいどこへ行くのか?」はたまた「どうやって使われるのか?」。
このページではそんな疑問に答えていきたいと思います。おっフォン
正月初詣期間中に奉納されるお賽銭の金額ランキング!
以下ではまず、正月三が日の初詣客が多い神社と仏閣(お寺)をご紹介します。
正月三が日の初詣客が多い神社ランキング
1位.明治神宮/約318万人
2位.成田山新勝寺/約311万人
3位.川崎大師/約308万人
4位.浅草寺/約293万人
5位.伏見稲荷大社/約250万人
5位.鶴岡八幡宮/約250万人
6位.住吉大社/約235万人
7位.熱田神宮/約230万人
8位.氷川神社/約210万人
9位.太宰府天満宮/約200万人
10位.生田神社/約150万人
※2018年(平成30年)統計
で、どれだけの金額が集まるのかを以下にご紹介します。
正月初詣期間中に奉納されるお賽銭の金額ランキング!
明治神宮(東京都渋谷区)/約13億2千万円
成田山新勝寺(千葉県成田市)/約12億9千万円
川崎大師(神奈川県川崎市)/約12億7千万円
浅草寺(東京浅草)/約12億1千万円
伏見稲荷大社(京都市伏見区)/約10億3千万円
鶴岡八幡宮(神奈川県鎌倉市)/約10億3千万円
住吉大社(大阪市住吉区)/9億7千万円
熱田神宮(愛知県名古屋)/9億5千万円
氷川神社(埼玉県さいたま市)/8億7千万円
太宰府天満宮(福岡県太宰府市)/8億3千万円
生田神社(兵庫県神戸市)/6億2千万円
これらの金額は2018年度(平成30年)の初詣参拝者のお賽銭の平均金額(414円)から算出された金額ですので、実際とは大きくことなる場合がありますが、おおむね目安にはなると思います。
例年、上記ランキングにランクインしている寺社では大量のお賽銭が奉納されることから、神社関係者だけではお賽銭の金額のカウントに手が回らず、お金を取扱うプロとも言える取引先の銀行の行員の方々がお金のカウント(計算)に参加されています。
計算された後は、即座に銀行へ運搬され、連日、「集計→銀行へ運搬」が繰り返されています。
お賽銭の使われ方とその行方
神職さんたちの給料(生活費)
神職さんたちの中には、内勤や内務と呼ばれる事務員や経理を担う職員さんもおられます。神職さんや巫女さんたちの衣服や備品、工事業者や納品業者とのやりとりをする事務員、諸経費や税務上の手続き、収支計算を行う経理などが代表例です。
また、売店専門の職員さん、御朱印授与を専門とした職員さんなど色々、おられます。
神社・仏閣が年中、行事が執り行えて何事もなく平凡に存続していけるのは、ひとえに1年でもっとも金銭が奉納される正月期間中があればこそです。
ただし、ほぼ正月期間中で集まった金銭で1年間やりくりしなければいけません。毎月の神職さんや巫女さん、お寺であれば僧侶の方々の生活費(給料)もこの中から捻出されます。
一説では神職さんの月の最高給料は60万円と定められているようです。
巫女さんの給料
巫女さんの中には正規職員となる巫女さんと、「助勤(じょきん)」といって、忙しい正月期間中のみに勤務するいわゆるアルバイトの巫女さんもおられます。
こういった臨時で勤務するアルバイトの巫女さんや、正規職員としてご奉仕される巫女さんの生活費も捻出されます。
業者さんへの費用
清掃
神社の境内は巫女さんや神職さん、寺院の場合は僧侶や寺務員さん自らが清掃を行いますが、大きな規模の寺社では、神域を含めた境内すべてを職員たちでは対応しきれないために、あえて清掃員の方にお願いしているケースがあります。とくに神域内に設置されたトイレや参道などを掃除してもらっているところもあります。
また、規模の大きな寺社ではゴミ箱にたまったゴミ収集を業者に依頼しているケースもあります。
境内玉砂利の入れ替え
境内に撒かれている細かい石(玉砂利)や参道の石畳も時が経てば老朽化が顕著となりますので、当然、業者に依頼して入れ替える必要があります。
防犯対策
規模の大小に関わらず、寺社にはお賽銭箱が設置されていることから、その防犯対策として警備会社に防犯センサーの取り付けを依頼したり、防犯のための巡回も依頼しています。
森林の維持管理
神社やお寺の境内には、森林や四季の花々が植栽されているところがあります。森林や花々を育成するためにはそれ相応の専門知識が必要になるため、維持管理を業者へ依頼しているケースがあります。
場内整備
寺社では年がら年中、行事が執り行われていますが、大きな行事になると大勢の参拝客が、どっと押し寄せます。京都の祇園祭や出雲大社の神在祭は有名です。よって行事の期間中は関係者だけでは対処できないことから、境内の整備員や案内係を業者さんに依頼したり、はたまた上述したような臨時のアルバイト巫女さんを募集したりします。
境内建造物・仏像の維持管理費用
その1.建造物
神社・仏閣においてもっとも経費がかかるのが境内建物の維持管理費用です。とくに文化庁から文化財および国宝の指定を受けている建造物はその維持管理に莫大な費用がかかります。
伊勢神宮では20年に1度式年遷宮(しきねんせんぐう)が執り行われますが、このときも500億円〜600億円ものお金が必要になります。伊勢神宮以外でも島根県出雲大社では式年遷宮で約80億円、奈良 春日大社の式年造替では約20億円、つまり建物の再建には途方も無いお金が必要になるということです。
この他、雨風にさらされた建造物は老朽化が伴うことから、万が一にでも倒壊しないように定期的に検査や修繕がなされています。
定期的に行われる理由は、現在は「建築基準法」という法律があることから建物を建てる時は必ずこの法律に則って建造しなければなりません。
ところが文化財指定の建造物は、建物自体に文化的価値が付いていますので建て直すといったことができず、その代わり定期的なメンテナンスが必要になってきます。例を挙げれば京都清水寺の舞台を支える柱はほぼ毎日、検査やメンテナンスが行われています。
なお、伊勢神宮の社殿群(内・外宮の御正殿ふくむ)は完全に造り替えられますので、文化財の指定は受けていません。出雲大社の社殿は本殿が国宝、その他の社殿が重要文化財指定を受けていますので新しく建て直すことはできません。(万が一、建て直すときは文化庁の許可が必要になります)この場合は遷宮とは言っても現在の用材はそのままに補強や修理になります。
春日大社も出雲大社同様に本殿が国宝、社殿群の多くが重要文化財指定を受けていますので、文化財指定の建造物は補修および修理になります。
その2.仏像
そして中でも特に仏閣、いわゆるお寺においてのみ支出が顕著であるのが「仏像」です。仏像は建造物とは異なり、細かい造形や彩色が施されていることから維持管理が極めて難しく、専門知識を持った次のような人たちの手助けが必須になります。
仏像の体躯の維持
化学薬品を使用するので化学薬品の知識に精通した人
仏像を赤外線で管理
赤外線を使用して仏像の内部の状況などみますので、IT分野、デジタル技術に長けた人
仏像の造形の維持
仏像の体躯は日々、老朽化していきますので仏像の造形を知る専門家の協力が必要になることもあります。
仏像を管理するための施設
現存する文化財指定の仏像のほとんどは樹木を代表例とした自然の産物で造立されていますので、どれだけ加工を施しても日々の老朽化からはまぬがれません。しかし、空調管理がしっかり行き届いた環境、すなわち施設を用意できれば、ほぼ永久的に現状をとどめることも可能です。ただし、莫大な施設の建造費と施設の維持管理費用が必要になります。
お供え品の購入費用
たいていの神社・仏閣ではお供え物が毎日用意されていますので、お供え物の購入費用も必要になります。伊勢神宮や出雲大社など格式のある神社では、お供え物の種類が多く、また、お供え物を調理する方法までも定められていますので、他の寺社よりはその分、費用はかさみます。
備品の購入費用
神棚にお供えするための道具や神具、おみくじの入れ物、職員一同の履物、文房具、パソコン、清掃道具などは消耗品なので、適度に購入する必要があります。
動物飼育費
伊勢神宮のように神馬(しんめ)と呼ばれる白馬や、境内で鶏(ニワトリ君)を飼育している神社では、エサ代が必要になります。また、病気したときや予防接種を受診する場合も別途、その分の費用が必要になります。
授与品(お守り・縁起物・お札)の制作費用
神社・仏閣では、多種のお守りや縁起物、加えてお札を授与されていますが、これらはほぼすべて自分のところで作成しています。
正月がちかくなると、毎年、巫女さんや神職さんが破魔矢や干支にちなんだ縁起物を作成している姿がニュースなどで見かけることがあるハズです。
なお、「おみくじ」に関しては日本全国ほとんどの寺社では山口県にある『とある会社』から購入しています。
- 関連記事:おみくじ日本一の会社が山口県にあった!?
寺社の広告宣伝費用
あまり注目されませんが、広告宣伝費がおそらく維持管理費の次にかかっているのではないでしょうか。
寺社もただ指をくわえて参拝客が訪れるのを待っているわけにはいきません。仮に文化庁から文化財指定を受けていても国からの援助金は全額支給ではなく、額が定まっていますので、修繕費がかさんで超過した分の費用は自分たちでなんとか調達しなければなりません。
そのためにはなるべく多くの参拝客に足を運んでいただくことが必要不可欠で、少しでも多くの金銭を奉納していただく必要があります。
そこで必要になってくるのが「広めるための活動」になりますが、現代には「広告」という便利なものがあります。
ただし、広告を掲載するのにも当然、必要になってくるのがやはり「金銭」です。その宣伝広告費として、たとえば行事があれば「こういった行事を執り行います」などの周知のために「新聞広告」をはじめ、電車の天井付近・駅舎の柱や掲示板に掲載されている「電車広告」、インターネットメディアに対しての「WEB広告」など、様々な広告で自社を紹介することになります。
神社・仏閣の税金は本当に無税?
よく世間一般的に『坊主まる儲け』などのような、宗教をやっていれば税金がかからないことをモジって皮肉った言葉がありますが、たしかに神社・仏閣は宗教法人に属していれば、宗教活動においての税金は税務上の取扱いでは『無税』です。
例を挙げれば、ここまででご紹介したお賽銭、お守りやお札、初穂料(お布施)、祈祷料などにかかる「消費税」や、1年間の収益から算出される「法人税」のほか、境内地にかかる「固定資産税」が該当します。これらはすべて無税です。
ただし、これら以外の活動、たとえばグッズや御朱印帳、ロウソク、線香などの販売活動を行った場合、これは商取引を行ったことになりますので消費税や法人税がかかってきます。
また、境内の駐車場を有料にした場合は、税務上は”境内”として見なされず、固定資産税および収益に対しての法人税がかかってきます。
そして忘れてはいけないのが、お守りや破魔矢を作成するためには材料が必要になりますが、業者から材料や備品などの商品を購入したときは、一般企業や私人と同じく消費税という名の税金がかかってきます。同様に神職・僧侶、および巫女さんの給料にも「所得税」という名の税金がかかります。
最近の話題では長野善光寺の住職が高級外車を運転してスピード違反で捕まったなどというニュースが流れていましたが、あれらは自分の給料で購入した車です。(まぁそれだけお布施をもらっているワケですがね。オホ)
以上、あくまでも宗教活動のみに限定されての無税であり、ほとんどの日本人の認識では宗教やってれば無税という言葉が出回っていますが、実際は大きく異なることが分かります。福沢1枚くれ
お賽銭を入れる理由や金額はいくらがベスト?
お賽銭を入れる理由や入れる金額はいくらがベスト?については以下のページを参照してください。
お賽銭を入れる理由や起源と金額はいくらがいい?お賽銭は投げ入れていいのか?
お賽銭とは?
お賽銭については以下のページをご覧ください。
終わりに・・
神社や寺院によっては神社庁や宗派に属することのない「単立の神社や寺院」として家族で個人運営されている寺社もあります。こういった形態の場合、個人自営業者として収益を得ていることになります。
中には自治体が管理運営している寺社もあり、この場合は自治体の収益になるケースもあります。
Writing:麻呂