お釈迦様の誕生日「灌仏会(花祭り)」はいつ?甘茶や白象の意味・由来・自宅で祝う方法も解説!

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毎年4月8日には、日本中のお寺で、仏教界で最も重要な行事の1つである「灌仏会(花祭り)」が開催されます。

灌仏会はいつなのか、どんな行事なのか、なぜ花祭りというのか、仏像(誕生仏)や花、甘茶、白い象などにはどのような意味があるのか・・

こちらのページでは、そんな、知っているようで知らない「灌仏会」にまつわる豆知識をご紹介していきます。

お寺に出かけられない場合に、ご自宅で灌仏会(花祭り)を楽しむための方法もご紹介しますよ。

「灌仏会(花祭り)」の読み方

「灌仏会」は、「かんぶつえ」と読みます。

「灌」は、「そそぐ」と呼む漢字です。

したがって、「灌仏」とは、仏(像)に水(液体)を灌ぐことを意味します。

仏教行事の「会」は、法会(ほうえ:法要)という意味なので、「かい」ではなく、「え」と読みます。

「灌仏会」には、花祭りを始めとするいくつかの通称・別称(別名)があります。

宗派や寺院によって、主に使用する呼称が異なりますが、「灌仏会」と「花祭り」が、最も一般的です。

「灌仏会(花祭り)」の通称・別称(別名)、名前の由来

花祭り

昨今、「灌仏会」は別称で「花祭り」と呼ばれ、スッカリと定着していますが、これは明治時代に命名されたものです。

ただし、灌仏会自体の起源は古く、発祥地は仏教の聖地であるインドとされており、日本に伝来したのが奈良時代の頃と云われています。

「花祭り」の呼称は、1916年(大正5年)、浄土宗の僧侶・安藤嶺丸(あんどうれいがん)が、仏教業界合同の灌仏会を東京の日比谷公園で開き、それを「花祭り」と呼んだのが始まりとされています。

灌仏会は元々、旧暦4月8日(現在の5月上旬頃)の行事でしたが、明治時代に新暦が導入されてから、新暦の4月8日に執り行うお寺が増えました。

「花」という名称の由来は、灌仏会の際に誕生時のお釈迦様の像(誕生仏)を花で飾ること、そして、灌仏会が行われる新暦4月8日が、日本の多くの地域で桜の花が満開になる頃に由来しているとされています。

花祭りの起源はドイツ?

1901年(明治34年)4月に、当時ドイツに留学中だった僧侶らが、ベルリンのホテルに集まって、誕生仏(後述)を花で囲み、ドイツ版の灌仏会「Blumen Fest(ブルーメンフェスト:花まつり)」を行いました。

この祭りは好評となり、翌年も開催されたということです。

1916年(大正5年)、「花祭り」が日本で初めて行われた時、その実行委員の中心的な人物だった浄土宗の僧侶・渡辺海旭(わたなべかいきょく/かいぎょく)は、1901年当時、ドイツのストラスブルグに住んでおり、ブルーメンフェストにも関わったとされています。

こういう事情から、日本に花祭りを持ち込んだのは渡辺ではないかとも言われています。

ただし、最初にブルーメンフェストと名付けたのが誰か、また、花祭りと訳して持ち込んだのは誰かというのは、はっきりとはわかりません。

なお、「祭り」という呼称は、本来、仏教行事には用いられません。

今は広く親しまれている「花祭り」は、ドイツで「灌仏会」を開くにあたって、わかりやすく受け入れられやすいということで名付けられた「ブルーメンフェスト」を翻訳し、逆輸入した名称だったというわけです。

降誕会

降誕会(ごうたんえ)とは、平たく言えば、「お釈迦様のお誕生日の法要」です。

ただし、「降誕」という言葉は、神仏の他、君主や聖人の誕生という意味もあるため、仏教界でも、宗派によっては、開祖(宗祖)の誕生日の法要を「降誕会」と呼んでいます。

例えば、西本願寺を始めとする浄土宗本願寺派の各地のお寺では、親鸞聖人の誕生日とされる5月21日に合わせて、「降誕会」を営んでいます。

また、日蓮宗のお寺(宗派)の中には、日蓮上人の誕生日である2月15日に、「御降誕会」または「御誕生会」と呼ばれる法要を開くところもあります。

日蓮宗では、釈迦ではなく大曼荼羅(だいまんだら)を本尊とするため、釈迦の誕生を祝うという意味での灌仏会・降誕会は行われません。

仏生会

仏生会(ぶっしょうえ)の名前の由来は、読んで字のごとく、「仏(釈迦)が生まれた日の法要」です。

奈良の東大寺興福寺、東京の浅草寺などは、灌仏会ではなく、こちらの「仏生会」を主な呼称としています。

仏誕会

仏誕会(ぶったんえ)も、降誕会や仏生会と同じく、仏(釈迦)のお誕生日の法要という意味です。

大阪の四天王寺や、奈良の宝山寺などが、こちらの「仏誕会」という呼称を使用しています。

浴仏会

浴仏会(よくぶつえ)は、灌仏会と同じく、仏に水(甘茶)をそそぐ法要という意味です。

中国の仏教界では、灌仏会の日は浴仏節と呼ばれています。

花会式

花会式(はなえしき)は、花祭りと同じく、灌仏会の際に誕生仏を花々で覆うことに由来する名称と思われます。

なお、奈良の薬師寺にも同名の行事がありますが、こちらは新暦の3月下旬に行われる修二会(しゅにえ)のことを指します。

龍華会

龍華(りゅうげ)または竜華という名称は、弥勒菩薩に由来しています。

京都・広隆寺の弥勒菩薩半跏思惟像【国宝】

弥勒菩薩は将来仏になることが約束されているので、未来仏とも呼ばれます。

釈迦の入滅後(死後)、竜華樹という木の下で悟りを開き、説法を3回行う「竜華三会(龍華三会)」と呼ばれる法要を開いて、衆生(しゅじょう:すべての生き物)を救うと言われています。

龍華会は、灌仏会の際、釈迦の次にこの世に現れるはずの仏である弥勒菩薩に会えるように祈るために行われた法要で、厳密には灌仏会=龍華会ではありません。




「灌仏会(花祭り)」はいつ?何月何日?

「灌仏会(花祭り)」は、本来、旧暦4月8日(新暦で4月末~5月初め)の行事でした。

ただ、明治時代に新暦が導入されると、「旧暦4月8日」とすると、毎年、灌仏会の日が前後することになってしまいますので、多くのお寺では、旧暦4月8日を1か月ずらした5月8日、または、新暦4月8日、あるいは、4月8日に近い日曜日などに灌仏会を行うこととしています。

また、花見などの行事と組み合わせたり、4月8日の前後数日間に関連行事を組んで花祭り週間としたりしているお寺もあります。

お近くのお寺が、何月何日に灌仏会(花祭り)をしているか、ホームページなどで確認してみてください。

なお、日本以外の国、東南アジアなどでは、釈迦の誕生日は2月15日(インド系太陽太陰暦)とされています。

このインド暦の2月は中国暦(日本で言う旧暦)では4月~5月にあたるため、中国では釈迦の誕生日が4月となり、いつしか4月8日で定着して、日本に伝来したのだと考えられます。

中国では伝統行事を新暦(グレゴリオ暦)に置き換えることはしないので、今でも旧暦で祝っています。

「灌仏会(花祭り)」は仏教の三大行事の1つ

仏教には、三大行事というものがあります。

  1. 灌仏会(かんぶつえ:花祭り)
  2. 成道会(じょうどうえ)
  3. 涅槃会(ねはんえ)

・・の3つで、それぞれ、お釈迦様の誕生日、悟りを開いた日、入滅した日(命日)を記念した行事です。

なお、お釈迦様の生涯の中には、「八相成道(はっそうじょうどう)」と呼ばれる8つの重要な出来事があります。

八相成道は以下の8つで、このうち降誕、成道、涅槃が上記の「仏教三大行事」となっています。

  1. 降兜率(ごうとそつ):
    兜率天(とそつてん:将来仏となるべき菩薩の世界)から白象になったお釈迦様が閻浮提(えんぶだい:人間の大陸)へ降臨
  2. 託胎(たくたい):
    白象となったお釈迦様が、母マーヤーの右の脇の下から胎内に入る(懐妊)
  3. 降誕(ごうたん):お釈迦様の誕生
  4. 出家(しゅっけ):お釈迦様の出家
  5. 降魔(ごうま):悪魔を退けて、瞑想に入る
  6. 成道(じょうどう):35歳で悟りを開く
  7. 初転法輪(しょてんぼうりん):悟りを開いたお釈迦様が、その教えを人々に解き始める
  8. 涅槃(ねはん):亡くなる(入滅)

「灌仏会(花祭り)」の由来と意味「お釈迦様が誕生した時の話」

灌仏会(花祭り)は、釈迦の誕生日を祝う法要ですので、伝説上、釈迦が誕生した日にはこんなことがあった、ということが、色々な方法で表現されます。

「灌仏会(花祭り)」とは?

灌仏会(花祭り)は、釈迦の誕生日を祝う法要です。

旧暦4月8日に行われていた行事のため、現在では多くのお寺で、現在の暦の4月8日に行われています。

灌仏会(花祭り)では、お釈迦様誕生の際に龍が天から香湯(香水)を降らせたという故事に基づき、お釈迦様の誕生時の姿を表わした誕生仏(像)に甘茶をそそぐ風習があります。

参拝者がその注いだ甘茶をいただいて家に持ち帰り、その甘茶で墨をすって「千はやぶる卯月(うづき)八日は吉日よ 神さけ虫を成敗ぞする」と紙に書き、蚊帳(かや)の吊り手に結んだり、玄関や戸口に貼っておくと虫除けのご利益があるとされています。

また仏教系の宗教法人が運営する幼稚園や保育園などでは稚児行列を行うところもあります。

ただ、民間においては、この日のを「卯月八日(うづきようか)」と呼びならわし、山の神に関係した行事を行う地域もあります。

ちょうどこの花祭りの日の時期は農業や山野での作業が活発にある農耕シーズンでもあり、花祭りは無関係となる春季到来を祝う行事として、飲食物を山の神や田の神に捧げたり、それらの飲食物を食べて飲んで遊興を楽しんだりします。

灌仏会(花祭り)の歴史

日本における灌仏会は、推古天皇や聖徳太子の時代(600年代初頭)には始まっており(一説には仁明天皇の時代(100年代中頃))、平安時代には宮中の行事の1つとなっていました。

灌仏会が一般的になったのは、1912年(明治45年)に、浅草公園(浅草寺境内を中心に設置されていた公園)の伝道会堂で仏教青年伝道会主催の灌仏会が行われたことがきっかけだったと言われています。

その後、前述の通り、「花祭り」という名称も生まれ、一般の人にもより広く認知され、親しまれる行事となりました。

花祭りは別名「霜月神楽(しもづきかぐら)」とも呼ばれる

花祭りと言えば、霜月神楽を指す場合もあります。霜月神楽が花祭りと同義とされる理由は、神前で湯立(ゆだて)を行いながら神楽舞を披露するからです。

このことから別名で「花神楽」もしくは「湯立神楽(ゆだてかぐら)」とも呼ばれるほか、伊勢神宮外宮の神楽の流れを汲むことから「伊勢流神楽(いせりゅうかぐら)」とも呼ばれています。

「霜月に舞われる神楽」ということで「霜月神楽」と命名されていますが、旧暦では11月、現在では1月初旬に斎行されています。

「花御堂」の由来 ~お釈迦様は花園で生まれた~

灌仏会(花祭り)では、お釈迦様が生まれた姿を表わした「誕生仏」を、「花御堂」と呼ばれる、草花で飾り付けた台に安置します。

この花御堂は、「おめでたいから」「華やかにするため」という理由で花を飾っているわけではありません。

灌仏会が花祭りと呼ばれるようになったのは、花祭りの名前の通り、「花」に由来した祭りであることが理由になりますが、この理由としては次の2つ述べられています。

  • 花は「稲の穂」と同じ意味をもっていた
  • 釈尊が花園で生まれた

稲の穂に関しては、当初、花が開くことは稲の穂が開くことと同義と位置付けられ、このとき祖霊や神霊が花にも宿ると考えられたようです。

釈尊が誕生したのもちょうど花が開いた季節だったとのことで、花を飾り立てるのは釈尊の生誕を祝すものでもあります。

この花については、例えば、奈良県の大神神社の祭礼の1つである鎮花祭にも由来をみることができます。

鎮花祭は桜の開花時期に行われるものですが、この由来は花びらが落ちる時に宿っていた神霊が姿を消し、疫病神が動き始めて疫病を振りまくとされたからです。

この縁起にちなんで現今の神社の鎮花祭では神前に花弁がついた桜の花が供されています。

また、上述で誕生仏を花で覆うからだとご説明しましたが、その由来は、「お釈迦様が花園(お花畑)で生まれたと言われている」ことにあります。

お釈迦様の誕生

お釈迦様(ガウタマ・シッダールタ/ゴータマ・シッダッタ)の誕生年・誕生日ははっきりとはわかっていませんが、紀元前5世紀頃(今から2500年ほど前)の4月8日(中国歴の解釈)とされています。

父・浄飯王(じょうぼんおう、シュッドーダナ)は釈迦族(シャキーヤと呼ばれる小部族)の王で、母・摩耶夫人(まやぶにん、マーヤー)は隣国の出身でした。

一説には結婚から約20年が経った頃に待望の第一子を懐妊し、出産の時期が近付いたマーヤーは、お産のため実家へ帰ろうとしますが、道中のルンビニ(ネパールの南部の村)の花園で休憩していた時に、赤ちゃんが生まれてしまいました。

無憂樹(むゆうじゅ)の花がきれいに咲いていたため、マーヤーが木の枝に手を伸ばしたところ、脇の下から赤ちゃん(後のお釈迦様)誕生したのだそうです。

無憂樹とは

無憂樹はマメ科の木で、アソッカ、アソーカ(阿輸迦)などとも呼ばれます。和名はムユウジュ、英名はAsoka treeです。
無憂樹という呼び名は、マーヤーが何の心配もなく(憂い無く)お釈迦様を出産したということから名づけられたと言われています。
この伝承から、印度菩提樹(インドボダイジュ)、沙羅双樹(サラソウジュ)と共に、仏教三大聖樹(仏教三霊樹)の1つとされています。

花祭りは、元々、この無憂樹を見て楽しむ行事だったとする説もあります。

「誕生仏」の由来 ~7歩歩いて「天上天下唯我独尊」~

さて、花御堂に安置される誕生仏(誕生仏像)と呼ばれる小さな仏像は、お釈迦様誕生時の姿を表わしています。

誕生仏というと、必ず、右手で天を指し、左手で地面を指す格好で表現されています。

誕生釈迦仏【国宝】
東大寺の誕生釈迦仏(誕生仏)【国宝】※東大寺ミュージアム蔵

この独特なポーズは、以下のような伝承に由来しています。

「天上天下唯我独尊」という宣言

生まれたばかりのお釈迦様は、すぐに立ち上がって東に向かって7歩歩き(一説には東西南北に7歩ずつ)、右手で天を、左手で地面を指しました。

誕生仏のポーズは、この時の、生まれて間もないお釈迦様のポーズです。

そして、お釈迦様は、東西南北に向かって、「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)」と宣言しました。

お釈迦様の「7歩」の意味

7歩歩いたというのは、もちろん、後世の人がお釈迦様を讃えるために作った物語ではありますが、だからこそ、6でも8でもなく「7歩」ということには、意味があります。

お釈迦様の教え(仏教)では、衆生は死ぬと次の世に生まれ変わる「輪廻転生(りんねてんせい)」を繰り返します。

生まれ変わる世界は「地獄道、餓鬼道、畜生道、阿修羅道、人間道、天道」の6つで、「六道(ろくどう・りくどう)」と呼ばれます。

この6つの世界は、程度の差はありますが、いずれも悩みや苦しみを伴う世界です。

普通、誰もがこの輪廻(生まれ変わりのサイクル)から抜け出すことはできませんが、悟りを開いたお釈迦様だけは、この6つの世界の外にある仏の世界へ行くことができました。

生まれたばかりのお釈迦様の「7歩目」は、六道から抜け出した「7番目の世界」、つまり、悟りの境地を表します。

天上天下唯我独尊の意味

「天上天下唯我独尊」とは、どのような意味なのでしょう。

現在、唯我独尊というと、「この世で自分だけが偉いと思っている自信家・自己中心的な人」というような意味で使われます。

実際に、そのまま読むと、「天上天下=この世で」「唯我独尊=私だけが尊い存在だ(自分ほど尊い者はいない)」という意味に取れます。

ただし、お釈迦様が誕生した直後に発したとsれるこの言葉には、別の意味もあるものと考えられています。

例えば、一般的には、「我」はお釈迦様自身のことを指す「私」ではなく「自我」の「我」であり、すべての人々を含めた「私たち一人一人」を指しているのだと解釈されています。

つまり、「(他の生き物ではなく、人間に生まれてきた)私たちは、誰もが尊い存在である」あるいは、「私たち人間は、誰もが尊い目的を持ち生まれてきた」などという意味です。

また、生まれたばかりの赤ちゃんが言葉を発することはないので、「天上天下唯我独尊」というのは、周りの者がお釈迦様を讃えた、「この世界で最も尊い、唯一無二の存在である」という意味の言葉だという説もあります。

現在は、お釈迦様を讃える言葉として使われている「天上天下唯我独尊」ですが、実は、その意味は、はっきりとはわかっていないのです。

天上天下唯我独尊には、続きがある

なお、「天上天下唯我独尊」には続きがあるとされています。

「三界皆苦吾当安此(さんがいかいく ごとうあんし)」という言葉です。

「三界皆苦」は、「三界=様々な欲、楽しみ、喜びがある人間界」は「皆苦=苦しみにあふれている(本当の幸せはない)」という意味だと解釈されます。

「吾当安此」は、「われ、まさにこれをやすんずべし」と読みます。

「吾=私(釈迦)」が、「当安此=この世界を安らかにする(幸せにする)だろう」という意味です。

唯我独尊の「我」と、吾当安此「吾」は、両方「われ」という漢字ですが、実はニュアンスが違うと言うことがおわかりいただけたでしょうか。

ここでは、「我」はご紹介した通り「自我」の「我」で、一人一人、自分自身という意味で、「吾」は、その言葉を発している本人を指しています。

まとめますと、「天上天下唯我独尊 三界皆苦吾当安此」とは、「この世界で私たち人間は一人一人が尊い存在である。世界は苦しみに満ちているが、私(釈迦)がこの手で救いをもたらすだろう」という意味と考えられます(1つの解釈です)。




「甘茶」の由来 ~龍神がもたらした香湯~

さて、灌仏会(花祭り)では、誕生仏に「甘茶」をかけることで、お釈迦様の誕生を祝います。

なぜ水やお湯、あるいは、普通のお茶ではないのか。

この甘茶も、お釈迦様誕生に関する伝承に由来しています。

龍神がもたらした香湯

お釈迦様が生まれた時、空に9頭の龍(水を司る龍神。八大竜王とも)が現れまたそうです。

龍神は後にこの世で唯一悟りを開く存在となるお釈迦様の誕生を祝うため、「香湯(こうとう)」を降らせたと言われています。

香湯とは、お香のような香りを付けた湯のことですが、お釈迦様の上に降ったこの香湯が、どんなものだったかはわかりません。

龍神が、産湯代わりのものとして降らせたものと考えられ、「清浄の水(キレイな水)」「甘露の雨」などとも解釈されています。

この香湯にちなみ、かつて灌仏会(花祭り)では5種類の香料で香りを付けた「五香水(ごこうずい)」または「五色水(ごしきすい)」と呼ばれる香水(こうずい:香木(香りの良い木)を沈めた(または他の方法で香りを含ませた)水)が用いられていましたが、江戸時代頃から甘茶(ユキノシタ科の植物「アマチャ」から作った甘みのあるお茶)が用いられるようになり、定着したようです。

なぜ甘茶になったかはわかりませんが、龍神が降らせたものを「甘露の雨(甘雨)」と解釈したからだと思われます。

甘露とは、インド神話に登場する不老不死をもたらす飲み物で、仏教においては仏の教えや悟りの例えとしても使われる言葉です。

「甘露の雨」とは甘い味の雨という意味ではなく、恵みの雨という意味の表現ですが、中国の伝説では、天地の陰陽の「気」が調和した時、または、王が良い政治を行う時に、天が降らせる甘みのある雨だと言われています。

このように、「龍が香湯を降らせた」という故事が、「龍が降らせたのは恵みの雨である」「恵みの雨のことを甘露の雨という」「甘露とは仏の教えの例えである」というように色々な連想を呼び、それぞれの意味を帯びて伝わり、最終的に「灌仏会(花祭り)に誕生仏にそそぐのは甘茶」というところに着地した、ということのようです。

貴重な材料を用いない甘茶は、法要後に参拝者にふるまうこともできるので、参拝者を接待できるという利点もあります。

龍神が降らせたという香湯や、不老不死や仏の教えの象徴である甘露にちなんでいながら、現代の日本の寺院で実践しやすい、というのが決め手なのかもしれません。

灌仏会で誕生仏に甘茶をかける時の作法やおいしい甘茶の作り方などについては、当サイトの以下のページ↓でご紹介しています!
 「灌仏会(花祭り)」でお釈迦様に「甘茶」をかける理由は?甘茶のかけ方(作法)、おいしい作り方まで一挙解説!

お釈迦様の誕生を祝った「龍神」とは

日本の仏教には、龍がよく出てきます。

たくさんいる龍のうち、「龍神」と呼ばれる、仏法(お釈迦様の教え)の守護神としての龍もいて、龍神とお釈迦様にまつわる様々な説話が伝えられています。

仏教には梵天、帝釈天、四天王などが属する「天部」がありますが、そこに、インドの悪鬼が改心してお釈迦様の家来になったものと伝えられる「八部衆」がおり、龍もその八部衆の1つです。

お釈迦様の誕生時に香湯を降らせたと伝わる龍神は、法華経に記載されている八大龍王(はちだいりゅうおう)という龍神だと言われています。

八大龍王は天龍八部衆とも呼ばれる「8体1組」の龍で、龍たちの中の王です。

お釈迦様の使いとされ、時に水を司るという性格を帯びて説明されます。

霊鷲山(りょうじゅせん:お釈迦様が法華経などを説いた山)にて、十六羅漢や他の天、菩薩たちと共にお釈迦様の説法を聞き、その結果、仏法の守護神(護法の神)となったのだそうです。

お釈迦様誕生の場面で登場する龍神は「9頭の龍」とか「9つの頭を持つ龍」とかと表現される場合が多くなっていますが、これは、八大龍王が、日本各地に伝わるの九頭竜(くずりゅう:9つの頭を持つ龍)」に関する伝説・伝承と合わさったためだと思われます。

「白い象」の意味 ~お釈迦様が生まれる前の姿~

灌仏会(花祭り)では、しばしば、お寺が経営する幼稚園、保育園の園児などが参加する稚児行列が行われます。

この稚児行列では、子供たちは、紙の張子などでできた「白い象」を引っ張りながら歩きます。

行列というと神社のお祭の神輿や山車を連想しますが、ここでは白い象です。

お寺によっては、この白い象に花御堂を乗せます。

白い象は、先にも少し触れた、お釈迦様の生涯の中の重要な出来事「八相成道(はっそうじょうどう)」の中の、最初の「降兜率(ごうとそつ)」の話に由来しています。

なお、稚児行列がよく行われるのは、灌仏会(花祭り)が戦前まで子ども中心の行事だったことの名残なのかもしれませんが、特に深い意味があるわけではないようです。

お寺によっては、白い象の置物を境内に飾っておくだけだったり、大人が引いて歩いたり、トラックの荷台に乗せて運んだりと、白い象のお目見えの仕方は色々となっています。

お釈迦様の象徴としての白い象

先ほどの八相成道の中の該当箇所を引用します。

  • 降兜率(ごうとそつ):
    兜率天(とそつてん:将来仏となるべき菩薩の世界)から白象になったお釈迦様が閻浮提(えんぶだい:人間の大陸)へ降臨

つまり、白い象は、この世に人間として生まれてくる前のお釈迦様の姿です。

この白い象は6本の牙を持つ「六牙の白象」だと言われています。

お釈迦様の伝記によると、ある日、お釈迦様の母マーヤーは、天から六牙の白象が降りてきて、自分の右の脇から体の中に入ってくるという夢を見たといいます。

そして目覚めた時に、大変重要な人を懐妊したことを悟ったそうです。

マーヤーの懐妊は、将来、悟りを開くために兜率天で菩薩として修行していたお釈迦様が、この世(人の世)に来たということを表しています。

なお、お釈迦様の次に悟りを開くと言われている弥勒菩薩は、現在、兜率天で修業していると言われています。

仏教にとっての「象」

お釈迦様の象徴(前世の姿)として登場するのが、ウシでもトラでもなく「象」であることにも、意味があります。

象というのは、仏教では神聖な生き物であり、縁起の良いものとされています。

象は、水を司る動物であり、豊穣の象徴でした。

例えば、仏の「天」の中には歓喜天(かんぎてん)という、象の頭・人の体を持つ神がいます。

また、普賢菩薩や帝釈天(インドの神・インドラ)は、やはり、六牙の白象にまたがった姿で、よく表現されます。

普賢菩薩象※東京国立博物館蔵

今でも像を神聖視する国や地域もあり、象は「幸運」や「地位・富・力」を表す動物として尊ばれています。

仏教にとっての「白」

神道とは違って、「白」という色が特にクローズアップされることは少ないものの、仏教においても、白は神聖な色の1つです。

「お釈迦様が白い象だったから白が神聖な色とされている」のか、「白が神聖な色だったからお釈迦様が白い象だったとされている」のか・・どちらが先なのかは解釈が難しいところですが、とにかく、白は、誕生や命を表す、大切な色です。

仏教に関して「色」というと、お釈迦様の精神の象徴として「五色(ごしき)」という言葉が用いられます。

五色は青、赤、黄、白、黒の5色が基本で、白は煩悩や罪のない「清浄(しょうじょう)」を表すなどとされます。

なお、古代中国の陰陽五行説の「木・火・土・金・水」に先ほどの5色を当てはめたものが、仏教の「五色」だと言われています。

他にも、方角「五方」、季節「五時」、儒教の教え「五常」などに、陰陽五行説を他のものに当てはめた考え方が見られます。

仏教にとっての「6」

白い象の6本の牙は、もちろん飾りではありません。

仏教にとって「6」と言えば、六波羅蜜(ろくはらみつ)です。

六波羅蜜は、悟りを開くために完成させる必要がある6つの修業(徳目)を言います。

波羅蜜とは、「完全な徳」を意味します。

六牙の白象は、つまり、六波羅蜜を完成させたこと(お釈迦様が悟りを開く存在であること)を示しています。

六波羅蜜とは、次の6つの修業です。

  1. 布施(ふせ)波羅蜜:他の人の役に立つこと
  2. 忍辱(にんにく)波羅蜜:強い忍耐を持つこと
  3. 持戒(じかい)波羅蜜:戒律を守ること
  4. 精進(しょうじん)波羅蜜:努力を怠らないこと
  5. 禅定(ぜんじょう)波羅蜜:心を鍛え、精神を統一すること
  6. 智慧(ちえ)波羅蜜:道理を見極め、人格を高めること

このように、灌仏会(花祭り)で登場するものの1つ1つには、それぞれ、お釈迦様の誕生にまつわる伝承に由来しています。

次回、お近くのお寺の灌仏会に参加される際には、ぜひ注目して見てみてくださいね。




自宅で灌仏会(花祭り)をする方法!

最後に、「お寺まで出かけられない!」という場合に、ご自宅で灌仏会(花祭り)を行う方法をご提案します!

本来はお坊さんが読経するなど、きちんとした法要が営まれた上で、誕生仏に甘茶をかけたり稚児行列があったりというイベントが行われるのですが、自宅開催ということで法要は省略しまして、形から入ることにします。

ご紹介してきた通り、灌仏会(花祭り)を行うのに必要なのは、以下のようなものです。

自宅開催の「灌仏会(花祭り)」で必要なもの

誕生仏(誕生釈迦仏)

像でも、掛け軸などの絵などでも構いませんが、甘茶をかけたいのであれば、像がおすすめです。

甘茶をすくう柄杓(ひしゃく)と、像を安置する器(浴盤、灌仏盤などと呼ばれるたらい)があるとより良いですが、ご自宅のスプーンとお皿でも代用できます。

通販サイトでは、銅製や木製の誕生仏が販売されています。

誕生仏を所蔵するお寺や博物館のショップにもある場合があります。

こだわり派のあなたには、花御堂がセットになったものもありますので、ぜひチェックしてみてください。

花・花御堂

お花は華やかで季節を感じられる生花がおすすめですが、造花や、紙で作ったものでもかまいません。

花の種類は、仏花としてよく用いられる菊でも、季節のお花でも、お好きなものを用いてください。

なお、仏壇やお墓にお供えする花としては、「棘がある・強い香りがある・毒がある」のいずれかにあてはまる植物は避けるべきとされる場合が多いため、例えばバラやユリなどは選ばないという人もいます。

花御堂まで用意しなくても、灌仏盤の周りを少し花で飾ると、花祭りらしさがアップします!

甘茶

甘茶とは、アジサイの仲間の「アマチャ」の葉を乾燥させ、煎じて作ったお茶です。

甘いのは、葉を乾燥させると甘みが出るためで、普通は砂糖を入れているわけではありません。

アマチャはガクアジサイのような花を咲かせる低木で、苗を買ってしっかり育て、葉を収穫できればご自宅で甘茶を手作りすることもおそらく可能ですが、乾燥させたり煎じたりする必要があるので、非常に手間がかかります。(乾燥させないと甘くなりません)

と、いうことで、オススメは、茶葉や粉末にした甘茶の購入です!

(※甘茶に毒性はないものの、濃すぎると中毒を起こすことがあるようです。購入した茶葉などの飲み方の説明に従って、お茶を作ってください。)

白い象

こちらも、あればより良いアイテムです。

置物でも絵でも構いません。

紙粘土などで手作りするのもおすすめです!

この他、仏教の行事ということで、ろうそくに火をつけ、線香を焚くなどしても良いと思います。

自宅開催の「灌仏会(花祭り)」の手順

1.誕生仏を用意する

誕生仏を灌仏盤の中央に安置します。
灌仏盤がなければ、やや深みのある食器で代用できます。
できれば、周りを花で飾ると雰囲気が出ます。

2.甘茶を淹れる

購入した茶葉や粉末の甘茶の説明書きに従い、甘茶を作ります。
誕生仏にそそぐ分に加え、自分でいただく分や、仏壇にお供えする分もあると良いですね。

3.甘茶を誕生仏にそそぐ

甘茶ができたてアツアツですとやけどの危険があるため、少し冷ましてから儀式に取り掛かりましょう。
お釈迦様の誕生日をお祝いし、日ごろの感謝を述べるなど、静かで清らかな気持ちで、甘茶を誕生仏に静かにそそぎます。
柄杓が無ければ、スプーンでかまいません。

あなたなりの方法で、灌仏会(花祭り)を楽しんでくださいね。

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