ひな祭りに食べるもので皆さんが思い浮かべるのは何でしょうか?
菱餅や雛あられ、白酒にちらし寿司など。
ひな祭りは他の行事よりも、この日にしか食べない、ひな祭りならではの食べ物が多い行事です。
では、なぜそのような食べ物を食べるようになったのでしょうか?
今回は、ひな祭りに食べる食べ物について、その意味や由来を詳しくご紹介します。
意味を知って、ひな祭りに臨めば、今まで口にしなかった物も、食べてみたくなるかもしれません。
ひな祭りの食べ物はお供え物⁈
ひな祭りに食べる食べ物は、言わば「行事食」です。
行事食とは、様々な季節の行事やお祝いの日に食べる特別な料理のことを言います。
それぞれ旬の食材を取り入れて、体調を崩しやすい季節の変わり目に、栄養と休息を与えたり、家族の健康や長寿を願ったりする意味もあります。
さらに、子供の守り神でもある雛人形へお供えする菱餅などは、神様へお供えする食べ物、つまり、神饌(しんせん)とも言えます。
神様へお供えした食べ物を頂くことで災厄を祓い、神様の恩恵を受けることにも繋がります。
ひな祭りの由来や歴史については、当サイトの以下のページでご紹介しています!
雛霰(ひなあられ)
和菓子の一種である、雛あられはひな祭りならではのお菓子と言えるでしょう。
和菓子の一種である雛あられは、女の子のお祭りを演出する上で、桃の花と同様に華やかで可愛らしくお祭りを彩ります。
雛あられの由来
雛あられの由来を探るといくつもの説が出てきます。
例えば、ひな祭りの原型とも言われる、宮中の子供たちの人形遊びである「ひいな遊び」です。
「ひいな遊び」では、「ひなの国見せ」と言って、お人形に外の世界を見せてあげようと、お人形を連れて野山に出かけるという風習があったそうです。
このとき、外に持ち出しやすいお菓子として、ひなあられが用いられていたともいいます。
他にもいくつかの説が伝えられています。
- ひなの国見せの際に持って行ったお菓子がひなあられの原型であるという説
- 京菓子職人が作った季節の菓子の1つとしてのかき餅に、小さなという意味の「ひな」を冠して「ひなあられ」としたという説
- 菱餅を砕いたものがひなあられの原型であるという説
- 江戸時代にいた、嵯峨天竜寺の涌蓮上人(ゆれんしょうにん)というお坊さんが、寺にお供えされたお餅であられをつくって、修行に持って行き、村人にも分け与えたという記録があります。そのかき餅が今のひなあられの原型であるという説
説は様々ですが、小さく可愛らしい雛あられは、その手軽さもあり、庶民にも広く伝わったようです。
雛あられの意味
雛あられは、その色に意味があります。
冬と春の間に食べるものとしてふさわしい色・意味付けとして、白いは雪、緑色は新芽、桃色は生命の息吹を表します。
また、黄色を含むと、四季を表しているとも言われています。
桃色が春、緑色が夏、黄色が秋、白色が冬を表現します。
四季を表すことで、四季折々の自然のエネルギーを取り込むとか、1年を通じて幸せを願うといった意味も込められているそうです。
地方によって違う雛あられ
雛あられは、地方によってもその作り方や形は様々です。
関東地方では、うるち米を炊いたり蒸したりした後に乾燥させた「乾飯」か、炒った豆に、砂糖をかけて甘い味付けにしています。
東海地方では、形に特徴があって、円柱型や丸い形をしています。
関西地方では、もち米を原料としたあられを塩や醤油味にして1センチ程度の丸い形状にします。
甘くない雛あられは、桃色は海老、緑色はノリなどを使います。
最近では、チョコレートをコーティングしたものもあるようです。
菱餅
「菱餅」は、皆さんご存知の通り、色がついた餅を重ねて菱形に切った餅のことを指します。
菱餅の「ひし」とは女の子を意味する言葉でもあるようです。
3月3日のひな祭りには雛壇に飾り、家に祭っている神棚や仏前にも供えることもあります。
菱餅の由来
菱餅の由来は、平安時代の新年行事であった、「歯固めの儀式」で振る舞われ、600年間も宮中のおせち料理の1つであった、菱葩餅(ひしはなびらもち)だとされています。
菱葩餅は、ごぼうと白味噌餡とピンク色の餅を餅や求肥で包んだ和菓子で、花弁のようにも見えるお餅です。
菱葩餅が振る舞われた「歯固めの儀式」は長寿の願いが込められた儀式であることから、現在の菱餅に込められた願いと重なるところがあるようです。
菱餅が菱形になった理由
今では、ひな祭りになくてはならないアイテムの1つですが、このような形になったのは、ひな人形作りが盛んだった江戸時代前期からです。
菱形はどうして菱形なのでしょうか?理由は諸説あります。
- 室町時代に将軍を世襲した足利家(将軍家)では、正月に紅白の菱形の餅を食べる習慣があり、その習慣が宮中に取り入れられたという説。
- 菱餅の形は、心臓や大地をかたどったという説。
- 元は三角形の餅であったが、水草の一種である菱の繁殖力の高さと子孫繁栄への願いを重ねて、菱形になったという説。
- 仙人は、菱の実を食べて千年長生きしたということにちなんで、長寿の願いを込め菱形にしたという説。
- 茶道など、あらゆる礼儀作法の流派として名高い小笠原氏の家紋である「三蓋菱(さんがいびし)」をかたどったという説。
- 菱形の角(かど)は魔除けの効果があるため、子どもの健やかな成長を祝い願うひな祭りに用いられたという説。
現在でも、どの説が正しいのかは明確になっていません。
そもそも、菱形ではなく三角形の餅を食べる地域もあります。
例えば、静岡県の遠江地方では、三角形の「三角餅」を、ひな祭りの日に子どもが両親に贈る風習があります。
また、三重県にも、同じように子どもが両親へ餅を贈る習慣がありますが、ここでは菱餅のことを「三角餅」と呼びます。
菱餅の色に込められた意味
現在では、3色の菱餅が一般的ですが、地方によっては、2色だったり、5色だったり、中には7色の菱餅もあるようです。
基本的な3色は、白餅・よもぎ餅・赤餅で、各々つきたてを「もろぶた」に平らに並べて、固くならないうちに包丁で菱形に切って、3段に重ねて作ります。
菱餅をひな祭りに食べる理由は、形の他、その色にもあります。
しかし、その色ごとの説は様々です。
1つの説として、赤い色の餅は「厄払い」を願ったもので「魔除け」の力があると考えられていて、解毒作用があると言われている山梔子(くちなし)の実で着色を施していました。
子供が大きく育つことが難しかった時代には、子供には悪霊がつきやすいと考えられていたためです。
白い色は、「清浄」を意味し、菱の実を入れて血圧低下の効果があるとされています。
緑色は、もともとは母子草(ハハコグサ)を使っていましたがが、母子では縁起が悪いとされ、代わりに蓬(よもぎ)が使われるようになりました。
蓬には、増血効果も期待されるため、「健康や長寿」を表します。
このように、何かしら身体によい素材を利用して、健康や長寿を願うとともに、身体を浄化し、厄を祓うという説があるのです。
また他の説として、この3色は、赤色が「桃」、白い色が「雪」、緑色が「大地」を表しているとも言われています。
寒く長かった冬が終わり、芽吹く新芽の力によって穢れを祓い、春の訪れを桃の花の色で感じ取る様子を表しています。
どの願いも、親が娘の健康や成長を願い、少しでも災厄から守りたいという思いが感じ取れます。
菱餅の正しい食べ方
そもそも、菱餅って食べるの?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、様々な願いが込められたお供え物を食べることは厄を祓うためにも必要です。
せっかくですから、美味しく頂きましょう。なお、「おこし」といった甘いお米を固めて作ったお菓子タイプの菱餅ではなく、ここでは、お餅を使った菱餅の食べ方をご紹介します。
①お供えする
お餅は通常、真空パックになっているものがほとんどです。
包装は破くことなく、そのまま飾りましょう。開けて出しておくと、お餅がカチカチになってしまいます。
もち、開けてしまったのであれば、お供えした後に細かく揚げてかき餅にする方法もあります。
②菱餅を切る
菱餅は3色の色ごとに切り分けることが出来ます。
もともと3色のお餅を重ねてから菱形に切っているので、包丁を横にして色の間に入れれば簡単に分けられます。
包丁を入れることにためらいますが、縁起物でも菱形は壊していませんし、食べることに意味があるものなので大丈夫です。
③焼く
オーブントースターやグリルで焼きましょう。
色がついているだけで、通常のお餅と変わりませんので、焼けたら醤油などお好みの味付けで頂きましょう。
「菱形の角は、魔物を遠ざける効果がある」という説に合わせて、角から食べることで健康になるといった言い伝えもあります。
また、角から食べることには、角をたてずに丸く生きる、人ともめることなく平穏に大きくなって欲しいいう願いも込められています。
皆さんで楽しく、美味しく頂けたらいいですよね。
白酒(しろざけ)
白酒(しろざけ)とは、蒸したもち米の飯粒をすりつぶして、焼酎やみりん、麹を加えて、1か月ほど熟成させたものです。
ひな祭りにおいて出されるお酒で、意外にもアルコール分約9%と、なかなかアルコール度数の高いお酒です。
白酒の由来
ひな祭りは、いくつかの遊びや風習が混ざり合い、今に繋がっている行事です。
そのひな祭りの原型である行事の1つとされる、上巳の節句(桃の節句)が白酒の起源と考えられます。
上巳の節句では、室町時代から桃の花を浸した酒を飲んでいました。
また、もう1つ、ひな祭りの起源となった行事である曲水の宴でも、桃の花を盃に浮かべた桃花酒を飲んでいました。
「桃花酒(とうかしゅ)」と呼ばれるお酒は、桃が中国では不老長寿の薬である「仙人の果実」とされたことや、長い年月を表す「百歳(ももとせ)」という言葉とも合わせて、長寿を願ったのです。
桃花酒は、長寿を願ったことにちなみ、縁起物としてふるまわれました。
桃花酒から白酒へ
そんな桃花酒が白酒に変わったのは、江戸時代です。
桃の節句には桃花酒がつきものでしたが、江戸時代に白酒が大流行し、様変わりします。
江戸中期には、商店の他にも「振売(ふりうり)」が天秤棒を担いで売りに来ました。
江戸後期では、大きな酒店で買うことが主流になり、特に、鎌倉河岸(現代の千代田区内神田)にある「豊島屋」の白酒は評判で、「山なれば富士、白酒なれば豊島屋」とも言われるような人気店だったようです。
現在でも、期間限定で販売されているので、当時の評判の味を実際に試すことが出来ます。
白酒と甘酒
同じように、甘いお酒である「甘酒」をひな祭りに味わう方もいらっしゃるでしょう。
アルコール度も1%前後と飲みやすいですし、アルコールが含まれていない甘酒もあるので、お子さんと共に楽しむひな祭りでは、甘酒を用意するご家庭が多いです。
ちなみに、雛人形の中の三人官女が手に持つ酒器にも、白酒が入っているようです。
読み方によって違う「白酒」
白酒は読み方が違ったお酒があります。
ひな祭りで飲むお酒は白酒と書いて「しろざけ」と読みますが、実は読み方が変わると、別のお酒の名前になります。
白酒(しろざけ)
ひな祭りなどに用いる甘みの強い酒
白酒(しろき)
神事に供される酒
白酒(はくしゅ)
どぶろくなどの濁り酒
白酒(バイチュウ)
中国酒。アルコール度数が高い蒸留酒
蛤(はまぐり)の吸い物
蛤は、平安時代には「貝合わせ」の遊びなどに用いられていました。
蛤のような、2枚1対の貝殼を持った二枚貝は、対の貝はぴったりと合いますが、それ以外の2枚の貝が合うことは絶対にないという特性を利用し、対になった貝殼を見つけるゲームです。
このような、対になっている貝殻でなければぴったりと合わないことから、仲の良い夫婦を表して、一生1人の人と添い遂げるようにという願いが込められた縁起物です。
女性の幸せを象徴する蛤を使った料理ということで、蛤のお吸い物がひな祭りの行事食として定着しました。
ちらし寿司
ひな祭りにちらし寿司を食べる理由は定かではありません。
ひな祭りが貴族の間で一般的に行われるようになった平安時代、お祝いの際には、アユやフナを使った「なれ寿司」が食べられていました。
このなれ寿司がちらし寿司へと変化したという説もあります。
由来は分かりませんが、現代のひな祭りの食事の定番であるちらし寿司を見ると、長寿を表す「海老」、見通しが良いとされる「蓮根(れんこん)」、健康でマメに働けるという「豆」など、縁起の良い具材が多く使われています。
様々な願いを込めながら、彩りも良く女の子のお祭りにふさわしい行事食へと進化し、定着したのも分かる気がします。
他にもあるひな祭りの行事食
他にも、ひな祭りの行事食として振る舞われた料理は、いくつかあります。
時代や地域によって、色々な料理が食べられているようです。
さざえ
願い事が叶うと言われています。
あさり
二枚貝なので、蛤の代用品として用いられます。
わらびやよもぎ、木の芽など
芽を出すものは、生命力の強さや子孫繁栄の期待が込められています。
おひたしや浅漬けにしたり、白酒に浮かせたりします。
よもぎ餅や桜餅など
ひな祭りに春の彩りを添える食べ物です。
端午の節句における柏餅にあたるものとして振る舞われます。
ひな祭りの遊びと行事食
地方によって、ひな祭りに行う遊びの風習や行事食が違います。
あなたの出身地方やお住まいの地方ではどうでしょうか。
青森県
旧暦の3月3日の頃に、子供たちが浜辺で「浜遊び」をし、蟹や貝をとってきて煮炊きして食べる風習が残る地域があります。
四国の徳島県海部郡でも見られる遊びで、「磯遊び」と呼ばれ、以前は旧暦の3月3日の大潮のころに浜でとれたものを煮炊きしていましたが、現在では、4月3日にお弁当などを持って磯遊びへ出かけるようになったようです。
山形県最上郡
「山の神の勧進」と言われる行事で、春になって山から里に降りてきた山の神様に、子供たちが主役を務めて花見をさせる行事です。
もともとは旧暦の3月3日に行われていた行事ですが、現在では4月3日に行われます。
愛知県三河地方
ひな祭りの日に子どもたちが、「おひなさまを見せて」と言いながら近所の家々をまわり、お菓子をもらって歩く「がんどうち」という行事があります。
島根県隠岐地方
ひな祭りの祝い膳を作り、そこに白の平餅とヨモギの菱形の餅をつくって供える風習があります。
岡山県
「ひなあらし」と呼ばれる行事があり、お互いの家をまわって、ひな段の前でお菓子やご馳走を食べます。
佐賀県
旧暦の3月3日に花見と合わせて、「せっくいそ」と呼ばれる「磯遊び」を行います。
鹿児島県姶良郡では似たような行事を「浜でばい」と呼んで、4月に山や海に出かけるそうです。
奄美大島や沖縄県
沖縄・奄美地方には、この時期に海のものを食べるという風習が残っています。
沖縄県では旧暦の3月3日の「はまうり(浜下り)」のときに、重箱料理を持参し、浜で海産物をとります。
本来は、海水で禊を行うという意味があったと言われていて、現在でも平安座島(へんざじま)では盛大に行われているようです。
また、浜下りの日は「さんぐゎちさんにち」や「さんぐゎちあしび」などとも呼ばれ、各家々で、仏壇や火の神に健康祈願を行う習慣もあるようです。
この行事の際には、祓いの意味を持つ「ふ-ちば-む-ち-(よもぎ餅)」をつくる風習も残っています。
国内の北と南で、同じような海へ出かける風習が残っているのは、不思議です。
蛤のお吸い物をひな祭りに食べる風習が全国的に定着しているのも、ひょっとしたら、この海の物を食べる風習からきているのかもしれません。
まとめ
ひな祭りの「行事食」には、色々な意味が込められていると分かりました。
様々な願いとともに、美味しく楽しく頂ける行事食は、ひな祭りの思い出に彩りを加えます。
普段はあまり口にしないような食べ物も、せっかくですから用意してみてはいかがでしょうか?
春の日差しの中で、家族が食卓を囲むひな祭りは、きっと、お子さんの健やかな成長につながると思います。
ひな祭りに欠かせない「ひな人形」の由来や歴史、種類、飾り方については、当サイトの以下のページでご紹介しています!
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Writing:YUKIKO-加藤