八朔と言えば果物を思い起こすことは多いですが、お祭りや日本の風習としての「八朔」については、実際、どんな物かピンとこないかも。
今日は日本古来の風習としての「八朔」を、様々な観点から紐解いてまいります。
八朔とは?読み方と意味と由来について
まずは「八朔」の読み方や由来について確認してみましょう。
八朔の読み方
「八朔」の読み方は「はっさく」です。
食べ物でも「はっさく」と書いたものがスーパーに売っているのを見かけることがあるはずですが、ここで言う日本の伝統行事の「八朔」は、食べ物の八朔とはまた違います。
八朔とは?
八朔とは、旧暦の8月1日のことを言います。
八月朔日とも呼ばれますが、「朔日」とはつまり「1日」のこと。「朔」は新月のことですので、旧暦の1日のことを、朔日、と言います。
つまり、旧暦の8月1日、ということで、この日が「八朔」と名付けられたのです。
八朔は「田の実の節供(たのみのせっく)」とも呼ばれていました。
八朔は、夏から秋に季節が切り替わる時期にあたります。この時期、農作物は「まだできていない」ですが、「これからできる」ため、八朔の時期は農作物のできが「よくなるか、そうでないか」の境目でもあったわけです。
そこで、農作物の収穫を前に田の実の神様に豊作を祈願しました。これを田の実の節供といいます。
「田の実」の別の書き方
「たのみの節句」の「たのみ」には別の書き方がいくつもあります。それは……
- 田実(田の実)
- 恃怙
- 憑
といった文字です。
「恃む」は「たのむ」と読み、何かを頼んだり、頼るという意味。ちなみに、父のことをこの文字で表します。
「怙む」は同じく「たのむ」と読みます。意味も「頼る」で同じですが、母のことを示す文字です。
「憑」も「たのむ」と読みます。「頼る」という意味があります。こちらは「憑人(よりまし)」「憑く(幽霊がとりつく……)」などの意味で使われる言葉ですね。
いずれにしてもこれらは、人に頼む、頼るという意味を持つ言葉ということになります。
「たのみの節句」はこれらの字を充て、今期の収穫を神頼みするという意味。ここから転じて、日常的に頼る相手に対して贈り物をする日、として、鎌倉時代の頃に浸透したと伝えられています。
ちなみに、この「田の実」の贈り物は、お中元の風習にもつながったと言われています。
八朔の儀式、お祭りがある
八朔のお祭りは、旧暦の8月1日から9月上旬にかけて農作物の豊作を祈って行われている儀式のようなものです。
また、京都の祇園で舞妓や芸者さんたちが盛装して挨拶回りをする風習も残っていますが。それはお祭りの章で解説していきます。
八朔の日に贈答を行う
八朔の日には贈答を行う風習がありました。
「八朔とは?」の項目で触れた通り、元々は「田の実の節供」と呼ばれていました。この「たのみ」は「頼み」でもあると考えられたため、八朔の日に、普段色々なことを頼んでいるような、頼りになる人、関係性の深い人に対して様々な贈答を行う、という風習ができてきたと考えられています。
この風習は、みかんの八朔とも完全に無縁ではありません。
例えば八朔みかんが有名な広島では、大福餅の餡として八朔を使用して拵えた銘菓、八朔大福がプチギフトとして贈られているようです。八朔前後によそのお宅へお邪魔する際は、八朔大福を手に入れて持っていくのも良いでしょう。
八朔はお中元と関連がある?
八朔の贈り物は、お中元と関連しているのではないか、と見る向きもありますが、八朔の贈答とお中元とが同じものであるかどうかという正確なことはわかっていません。
そもそも「田の実」の贈り物とは違い、お中元の起源は中国にあるという説が主流です。日取りは旧暦の7月15日で、これもまた八朔とは違っている部分です。
しかし時期的にも近く、贈り物をする……という風習と一致することから、田の実の贈り物とお中元とは、元々は別々の贈答文化であったものが統合した可能性などが考えられています。
お中元についてはこちらの記事も参考にしてくださいね▼
お中元とは?時期・送り方やマナー・由来・歴史まで徹底解説!お歳暮との違いも
2021年の八朔はいつ?
2021年の八朔の日は9月7日です。
八朔は旧暦で8月1日のことを言いますが、現代の暦では8月下旬から9月上旬にあたります。新暦の日付は年によって違いますのでチェックしてみてください。
ちなみに、その年の旧暦は「旧暦 カレンダー」などのキーワードで検索をすると、簡単に知ることができます。
八朔のお祭りが行われている場所は?
八朔には贈答だけではなく、収穫を祈るためのお祭りが行われていました。現在でも地域によって、八朔のお祭りは続けられています。
河南町(大阪)、那珂湊(茨城)の八朔祭り
一般的な神社のお祭りとして八朔という行事が残されている場所としては
- 河南町(大阪)
- 那珂湊(茨城)
などが有名です。
とりわけ那珂湊の八朔祭りは「那珂湊天満宮御祭禮」であり、例年であれば多くの人が集まる天満宮の例祭となっています。
祭礼の日取りは必ずしも、旧暦8月1日というわけではなく、自治体と協議の上、8月末近くに行われることが多いようです。もしも訪問を検討されるのであれば、日程を必ずご自身でご確認くださいね。
祇園(京都)の八朔
京都の祇園で行われている八朔は、神社のお祭りとは少し意味合いが違っています。
祇園の八朔は、舞妓さん・芸妓さんが日頃から芸事でお世話になっている師匠やお茶屋に感謝の思いを伝えるため、黒紋付の正装を着用して挨拶周りをする行事。
日付は毎年、新暦の8月1日に行われています。
時間帯はおおまかに、午前10時頃から始まり、お昼過ぎまでに終わることがほとんど。といっても挨拶回りの舞妓さんたちが殺到・重複しないよう、それぞれのお店(置屋)が少しずつ時間をずらせていますので、必ず何時とは言えません。
舞妓さんや芸妓さんが挨拶回りに回るのを祇園の一帯で見られますが、特に見物スポットとなっているのは
- 祇園白川にある巽橋
- 花見小路にある一力亭前
の2箇所です。
京都界隈では地元のテレビ局なども取材に訪れる、大々的な行事です。
八朔を英語で言うと?
「八朔」は海外にある行事ではないので、そのまま「Hassaku」と伝えるのがスタンダードです。
では、どのような行事であるかを英語で説明してみましょう。
Hassaku is the abbreviation of hachigatsu sakujitsu which means August 1 on the lunar calendar.
八朔(はっさく)とは八月朔日の略で、旧暦の8月1日 (旧暦)のこと。
lunar calendar、すなわち「旧暦」において、8月1日である、ということが説明できれば良いですね。
八朔の日はその由来を意識してみて
八朔について様々な視点から紐解いてみました。八朔と言えばみかんのことだろ! という人も多いかと思いますが、伝統行事としての八朔についても、知っていただけたかと思います。
八朔は田の実の日、いつもお世話になっている人に贈り物をしたり、日頃の感謝を伝える日でもあった……なんてことを、ちょっと思い出してみるといいかもしれませんね。
Writer:夜野大夢(ホームページ)